2010年07月29日

がらくた

4df87851.jpg「大島さんに読んで欲しい本があるのよ」
彼女はこのブログの書評をたのしみにしてて
最近読んでこころに残った作品を、私が
どう受け止めるのかが知りたいのだそうだ。

「江國香織の『がらくた』って本」
「ああなるほど。読む以前にわかったよ。
人間なんてしょせん未完成であり不十分。
だれもがガラクタなんだっていう言い訳のような
ことを江國香織が言うんでしょ?そういう
ネガティブなタイトルの本は読みたくはないな」

その時の彼女が遠くを見ながらこころの中で
そうでもあるしそうでもない、どう説明すべきなのか?
そんな葛藤が見て取れてとても可愛らしかったので
読んでみる事とした。

江國香織の作品は以前も書いたが、つねに実験している。
小説家というよりは映画監督のようである。
この『がらくた』も今まで読んだ彼女の作品とは
また違った作風であり、そこがおもしろかった。
そこに関して具体的にはあえて言わない。

彼女の作品の世界は、とてもリアルにストーリーを
空想させてくれるので読んでいる途中で
自分が誰なのか?だの、今は何時なのか?だの
明日はどんな予定があったか?など
すべて蚊帳の外になってしまうのであり
彼女の紡ぐ世界にどっぷりと入り込んでしまう魅力がある。

読書の時間ってのはDVDを観るのとは違って
ああ、あと5分の1くらいで終わってしまう、とか
指の感覚でわかってしまうのであり、いちばんの疑問は
「それで『がらくた』っていったいぜんたい何?」
終盤に向かった時、そんな疑問に包まれ
さらに集中力が増した私である。
タイトルと内容との相関関係がわからないのだ。

読み終えて数時間後にそれはわかるのであり
ぜひとも余韻を楽しんでほしい。

あ、そうそう文庫本のあとがき。
あれはいけない。
ぜんぜんこの作品を理解していない。
だから買う前に書評というのかあとがきを見て判断するのは禁止。
的外れであり、浅い。
中学生の読書感想文のようなのである。

<読んでみようかな、と思った人はここから侵入禁止>

この小説の中で『がらくた』ということばは
たったの一度しか出てこないからおもしろい。

彼女の言いたい『がらくた』というものは
ほぼ冒頭で出てくる言葉との対比となっている。

「完璧じゃない人生なんてあるんだろうか。すべての人生は、ある種の完璧だ」

この力強い肯定と否定的な『がらくた』というタイトルに
もたらされた思いというものは、私の推測によれば
人の価値感なんてものは千差万別十人十色なのであり
しかもその時の気分によって玉虫色なのだからこそ
自分にとっての宝のような物・事・時間・恋愛だって
ひとからみたら単なる『がらくた』に過ぎない場合が多いのだが
それは自分にとっての『誇り高いがらくた』なのであり
誰にも介入できない自分の世界を構築することこそが
この世を生きた証であり、それを「幸せ」と呼ぶのなら
きっとそういう事なのだろう、という事だ。

今現在の自分の身の回りのモノコトだけでなく
過ぎ去った思い出の中の出来事や恋愛のなかにさえ
『ある種完璧な、誇り高い瓦落多』を認識できるのだ。

江國香織の『スイートリトルライズ』はなんとも気持悪かったが
この本を読んでその理由が分かった。
感情移入の度合いである。
『スイートリトルライズ』の中の登場人物はみんな
他人に敬意を払っていないのであり「甘い嘘」ではなく
「自分に都合の良い嘘」にまみれているから感情移入ができなかった。
「甘い嘘」というのは「相手のためにつく嘘」なのである。

彼女がこの本『がらくた』を読んで欲しいといった意図として
この中の登場人物の、誰に感情移入して読んだのか?が
素朴な興味だったと思うのだが、おあいにくさま。

全員に共感しつつ、全員のキャラクターをまるで
友人や家族のように想像できたので、江國香織の世界を
満喫できたよ、ヒロちゃんありがとう。
結論は『ある種完璧な、誇り高い瓦落多』です。

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コメント一覧

1. Posted by ひろ   2010年07月29日 08:57
いやん、読書感想文の提出ありがとうございます☆

この本は、読んでるときは感じないんだけど、読後感が良くて。なんてことない感じの日常が綴られたあとで、人生謳歌的な満足感と虚無感の共存がなんともいえないの。

絶賛する内容でも、衝撃的な内容でもないのに読ませる本だなー、と。言葉が悪いけど、暇つぶし的に読むことが多かった江國香織の本の中で、私の中ではっとするような秀逸な本だと思ったし。

本当はこういう女性目線100%の小説は恋愛至上主義な女性にオススメしたい本なのだけれど、あえて男性からこの本をどう感じるかをね聞いてみたくて読んでってお願いしてみました♪

読書感想文、大満足です。


2. Posted by ホヌ・マハ郎   2010年07月29日 15:50
■ああ、そうなんだ。
 ひろちゃんも余韻を愉しんだのね。
 読後感ということばははじめて聞きましたが
 そのとおりだと思います。

 もう、すでに個々のキャラが入ってきてるので
 安心して物語をフェードアウトできる。
 美海のこの恋も幸せながらくたの仲間入りをするわけですな。

 文章のそこここに哲学的な言い回しがあって
 二か所ほどページを折ってあります。
 彼女の表現力はとっても勉強になりますわ。

 ひろちゃんの言う「なんてことない日常」を
 アマゾンのレビューなどでは非現実的だの
 気持ち悪いだの不気味だのと評されている事もまた
 とても興味深いです。(笑)

 いい時間をありがとう。

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